アプリ「マンガワン」上で圧倒的な支持を得るとともに、pixivやTwitterなど多方面でも話題の新人・橘オレコが送り出す、会心のデビュー作!

穏やかな結婚生活を送る専業主婦の早梅(はやめ)。ある日、その生活を一変させる出来事により一文無しのホームレスとなった彼女を拾ったのは、生意気な金持ち男子高校生・壱成(いっせい)だった……!!

キュンとするシーンの続出に悶絶が止まらない年の差ラブストーリー、読み逃せません!

取材・文/田中香織(2018/6/12公開)


動き出したらまっしぐら

絵はいつごろから描かれていたのでしょうか

もともと小さい時から好きでした。小学校の時には初めてマンガを描いて。でも小、中、高とバスケットボール部で、ずっと部活ばかりしていたので、その合間にちょっと描くぐらいでした。本格的に描き始めたのは3年前ですね

そうなんですか?!たったの3年前……!

その時に出産をしまして、時間ができたんです。やることがなくなって、何かやりたいとなったときに「絵を描くのは良いかな」と思ったのがきっかけです。今が30歳なので、27歳の時でした

勝手なイメージですが、同人誌で二次創作を描いていてもおかしくない絵のタッチだと感じていました

同人もやっていました。3年前から

それも3年前なんですね!

思い至ったらすぐに動いちゃうタイプで。実はコミケにも行ったことがなかったんです。同人誌を出したときに、初めてサークルとして参加をしました

小さい頃からマンガ家になりたいというわけではなかった

ないです、ないです!趣味で描くぐらいでしたね。友達や妹に描いたものを見せて一緒に楽しむぐらいの、それぐらいの感じで軽く描いていました

とても意外です!というのも、先生のTwitterを拝見していると、いつも「絵を描きたい、描きたい」という欲が強く伝わってきますから。たとえば2018/2/15には「描きたいものありすぎて手が二本じゃ足りないっていつも思ってる」という一言が

ハマったらもうそれだけになっちゃうタイプ。昔からそういう性格です。何かひとつだけハマるものを見つけて、没頭するという。中途半端なことはできなくて、やるならとことん!みたいな感じです

ご出産を機にお家にいる時間が長くなったとのことでしたが、慣れるまでは子育てもご苦労が多かったのでは

そうですね。でも、絵と家事や育児は別でした。子どもは可愛いんですけれど、やはり我慢することも多くて、子育てだけをしていると、気持ちが内々に入ってしまうということもありました。何か楽しめることを、と思った時に絵だった、という感じです。子どもが寝てる合間などに時間を使えたので、そこで一枚描いたら楽しくなっちゃって。次の日から、朝2時起きとか3時起きとかして描いていました

ええっ?!いきなりそこまで

さすがにあれはやりすぎました(笑)

確かに「魔女集会描きたいがためにいつもより一時間早く起きてやった。ははは(仕事しろ)」というつぶやきも拝見しました

描きたいものができちゃうと前日楽しみになってしまって、眠れなくなってしまうんです。次の日、目覚まし時計が鳴る前に目を覚ましたり。思いつくとまずいんですよね

twitter「#魔女集会で会いましょう 何度売っても戻ってくる二人」より twitter「#魔女集会で会いましょう 何度売っても戻ってくる二人」より


絵を描き始めるまでのこと

3年前の、最初に描いたときのことを覚えていらっしゃいますか?

覚えています。最初はアクリル絵の具で描きました

はじめからアクリル絵の具とは……!もともとお持ちだったのですか?

買ったんです。アクリル絵の具や画材について、「絵を描く」で検索をした時にいろんな絵が出てきて、こういう絵を描きたいなと思った時に、じゃあ何を使って描いているんだろう?とさらに調べて。それで「アクリル絵の具」と出てきたので、まずはそれを買ってそれっぽく描いてみようかなと思い、それで画材屋さんに行きました

絵を描きたいと思ったのが先ですか。それともマンガを?

「絵を描くっていうのがあったな」と、小学校の時にハマっていた時のことを思い出して「描きたいな」と思ったのが先です。昔マンガを描いていた時には、シャーペンとノートを使っていました。一般的な小学生のマンガの描き方ですよね。ですから、ペンは使ったことがありませんでした

アクリル絵の具で最初に描かれたのは風景でしょうか。それとも人物画

人ですかね。Webに面積で絵の価格が決まる測り売りのオンラインショップがあって。それを知って「ちょっとやってみよう」という感覚でそれに載せて

デジタルのイラストだけではなく?

アナログもデジタルも、どちらもありました。そのサイトを見つけて「売ってみたい」と思ったんです。やるんだったら本気で、中途半端なことはせずに「絵を売ることで収入を得たい」と考えました

「#バツイチアラサー女子と男子高校生」第一話より 「#バツイチアラサー女子と男子高校生」第一話より

時間つぶしとしてではなく、職業としての絵描き!

そうですね。「ずっとやっていきたい」となったら、ほかに時間を使いたくなくなるんですよ。たとえば外に出て仕事をしたりとか。もう「それだけでどうにかしていきたい」と思っちゃうので、最初から仕事にすることを目指していました

徹底されていますね。「なれないかも」とか「描けないかも」とか、そういったご発想は

全く無いわけではないんですが、それよりも「楽しい!」がいつも上回って(笑)「これ大丈夫なのかな?」と心配になるよりも、楽しさが上回って突っ走っちゃう感じですかね

初めてマンガを描き始めたのはいつでしたか?

アクリル絵の具をはじめて半年後くらいの話ですが、描いたイラストをサイトに出して、何枚か売れたのが本当に嬉しくて。それがきっかけで、宣伝のためにTwitter を始めました。Twitter を始めて、いろんな人の絵を見るようになったら、マンガを描きたくなってきました。最初の段階ではイラストを、1枚絵として描いてみて。そしたら、コミケに出るのも楽しそうだなと思い始めて、今とは違うペンネームで二次創作を始めたんです。それで半年から一年くらい。ただ「入稿」とか、最初は意味が全然わかりませんでした(笑)

デジタルで作画されるときのソフトはどういったものを

クリスタを使っています。これも当時、検索したら「クリスタが良い」と出ていたので(笑)価格もお手頃かなと。クリスタを使い始める前は、紙にペンで描いたものを取り込んでいました。一時期、クリスタだけを使った作画もやってみましたが、性に合わなかったみたいで……。いろんなやり方を試して、結局紙に描くのが一番楽しかったので今は戻った感じです

「紙の方がしっかり質感を出せる」という方もいらっしゃいますよね

感覚というか感触が良くて。他の方でも多いかもしれませんが、最初は紙に描いて、トーン処理はデジタル。楽です


マンガを描くまで。そしてそれからの日々

最近のマンガは読まれていますか

あまり読書家ではないんですが、勉強のため読むようにしています。もともと少女マンガは読まなくて、どちらかというと少年マンガの方を読んでいました。それでも、あまり読まない方だと思います

初めて読まれたマンガのタイトルなどは覚えてらっしゃいますか?

何だったけかな……覚えてないなあ

小説や映画などは

まったく読まないし、見ないんですよね。本当はしなくてはいけないんですけれど

ストーリーを描くための資料として見ることもなく?

二次創作時代は……(笑)TVドラマもほぼ見てなかったです。作品に触れることはアウトプットのために大事だと分かってはいたのですが……。実際、連載企画を作り始めたらネームが全然進まなくて。さすがにマズイと感じて、今は作品を読む・観るようにはしています。影響を受けたり、引き出しを増やしたりすためにも、かなり大事だなと思っています

担当編集(以下 編) 「これ面白いですよ」「あれ参考になりますよ」と作品を薦めると、迷わず購入してすぐに読んで(観て)くれるので、すごいスピードで色んなものを吸収されていると思います。

直感だけでなく基礎を鍛える、といった感じでしょうか

そうですね。きっと連載をやっていなかったら、たぶんほとんど物語を読んでいませんし、見ていません。ふだん、テレビを見ないので。ラジオも聞かない。……私、何をやってたんでしょうね?自分でもわからない(笑) 編集さんにネームやプロットを練って提出して、そのときにいろんなアイデアを与えてもらっていることは大きいかもしれません

最初にマンガを描こうと決めてから、実際に描いてみていかがでした?

ちゃんとマンガになっていたのかはわかりませんが、とりあえず完成はさせました。32ページの一冊の薄い本にして

なるほど!二次創作なので、キャラの設定や基本のお話はあったわけですね

はい。最初に描いた作品はたまたま見たアニメのキャラクターを好きになって。そこから「これを基にマンガを描いてみたいな」と思ったのがはじまりです

その後、オリジナルを描くことになったきっかけは

まず「同人誌を描いて生活費を稼いでいけないかな」と、計画を立てたんです。とにかく「絵だけ描いていたい!」と思ったので。そこからしばらく同人誌を描いて「〇ヶ月に〇冊出すとこのくらい」といった計画を立てました。ただ、いずれは自分のオリジナルも描いてみたいな、ということも感じ始めて

『プロミス・シンデレラ』カラーイラスト 『プロミス・シンデレラ』カラーイラスト

なるほど、それでオリジナルに移行を始めた

pixiv にオリジナルを一つ描いて載せました。そうしたら、たまたま今の担当編集さんが見てくださって

流れが早い!(笑) 担当さんは普段から pixiv をチェックしてらっしゃたのですか?

(編) そうですね。オレコさんには一昨年2016年10月にお声がけして、一緒に『主任様と新人くん』を作って、2017年3月にマンガワンへ掲載しました

「オリジナルを載せたら声がかかるかも」という手ごたえはありましたか?

いいえ、まったく。作家の友達もいなかったので「みなさん、どういった形でオリジナルを描いているんだろう」と、探り探り。そういえばコミケに出た時も、最初は一人で出ようと思っていたのですが、フォロワーさんが「手伝おうか?」と付き添ってくださることになって

なんと!持つべきものはやさしいフォロワーさん(笑)

買ってくださる方が結構いそうだったので、そう言ってくださったみたいです。当日初めてお会いしました。でも、初参加だったので「コミケってこういうものなのかな」と思いました

職業作家さんが周りにいない状況で、編集さんとの付き合い方も手探りで

全然わからなかったですね。本当にずっと一人で描いていたので、連絡が来たときには「編集者ってプロじゃん!」と、どこか別世界の話のような気がしました。「職業にしたい」という気持ちがあるのに、自分の中にはっきりとしたビジョンがなくて、ふんわりした状態の中でやっていた。「同人としての計算はしてたけれど、意外なところから声がかかった」という印象でした。マンガアプリも全然知らなかったので、いたただいたメールに「小学館」とあっても「これ本当かな?」とめちゃくちゃ疑って、家族と相談しました

緊急家族会議!(笑)

結論としては「実際に一度会ってみないとわからない」という話になって

(編)会社までお越しいただいたんですよね

はい。足を運んだら社屋の大きさに驚いて「間違いないじゃん!これはヤバイところに来た」みたいな気持ちに(笑) それが一昨年2016年11月のことで、お話しして「実際作ってみましょう」という流れになりました

『主任様と新人くん』は、マンガワンでの掲載が前提だったんですか?

(編)そうですね、もともとマンガワンは「裏サンデー」という男性向けのレーベルが主体ですが、編集部内で「女性向けの作品も強めたい」という流れになり、女性向けのものを描ける作家さんを探していました。少女マンガっぽすぎず、男性も読みやすそうな作風が良いなと思っていたので、ぴったりだと思い、ぜひマンガワンでとお声かけしました。オレコさんとは「読み切りをやりましょう」という感じで打ち合わせを始めて、出来上がったネームや設定を編集長にチェックしてもらいました

「主任様と新人くん」表紙 「主任様と新人くん」表紙


創作と「描くこと」への渇望

「プロミス・シンデレラ」について伺います。「主任様と新人くん」でも描かれた「年上女性と年下男子」という組み合わせにはこだわりが?

もともとはそうでもなかったんです。でも、描いているうちに描きやすくなってきて。自分が年を取るにつれて、そういう組み合わせが好きになってきたような気がします。割と最近です

ヒロイン・早梅(はやめ)のモデルはいるのでしょうか

最初は、私の旦那でしたね。生い立ちや考え方など、ヒントをたくさんもらいました。でも、男っぽさは自分からかもしれません(笑)名前は当て字っぽいですが、もともと古風な名前が好きで、考えているうちにすっと出てきたような気がします

『プロミス・シンデレラ』1巻より 『プロミス・シンデレラ』1巻より

Twitterでは『#バツイチアラサー女子と男子高校生』を描かれています。本編との位置づけとしては

『#バツイチ~』は『プロミス・シンデレラ』より後の段階を描いていて、時間軸は半年後の設定です。連載がはじまる前から、我慢できずに勝手に描いてTwitterに載せちゃったんです(笑)

ええっ!?自主的新連載?しかも本編の連載前から!

描きたくなったら止められなくて。「こんなのだったら楽しいな」と思いながら描いて載せたのがきっかけで、結果として読者の方からの反応が良くて、「じゃあこの方法で行ってみようかな」という感じになりました

フリーダムさが心強い(笑) ところで執筆の速度についてですが、連載一話目が57ページ。その後は25ページ前後で推移しています。量を描くのは大変だったのでは

(編)マンガワンにページ数の制約という縛りがなかったので、結果的に57ページになりました、という感じです。最初はもっと短い予定でした

経験がなかったので、とにかくいろいろ考えました。一、二話は特に考えて。でも、長さについては意識していませんでした。連載自体初めてでしたから、どれくらいの長さで始めるのが妥当かという感覚もなく、普段マンガもあまり読まないので……

コンスタントに描き続ける「職業作家」として描くということはいかがでしたか

物語を作ることにまだ慣れていないので、ネームの段階で締切が気になります。作画の時間よりもネームに時間がかかっていて

締切までの作業工程というのはどういった感じですか

(編)本編の隔週掲載と、最近はじまった『#バツイチ~』の月刊掲載をあわせて、だいたい月間50ページ程描かれています。それに加え、Twitterでも描いてくださるので、月産のボリュームはそれ以上かと。しかもアシスタントさんの手を借りずに、お一人で描かれているんですよ!オレコさん、手がとても早いんですよね

私が「早く描きたい、描きたい」となってしまうので、すべてが同時進行なんですよね。例えば ネームチェックをしてもらっている間に、耐えきれずにペン入れを始めてしまったり……(担当編集の方を見て)すみません(笑)でも、描くことはまったく苦になりません。むしろ楽しくて楽しくて

なんとパワフルな……!「描くこと」への渇望が原動力なんですね。ところで、Twitter の中で触れてらっしゃったマンガ技法書について、どうやって入手されたのでしょう?

本屋さんで見つけます。本屋さんに行くと、そういう技法書のコーナーで中をパラパラと見て「これ使えそうだな」と思ったら買います。見ただけで上手くなれてるような、パワーアップできるような気がして

背景などは取材に行かれることも?

子育て中なので、外に出る時間をなかなか取れないんですが、旅館だけは実際に足を運んで、先日写真撮影などの取材をさせていただきました。壱成と早梅の住む家を「茅ヶ崎館」様にて、片岡の旅館を「落合楼村上」様にて

コマの割り方についても伺いたいのですが、いずれの作品も読みやすく感じます。変形コマがほとんどなく、四角いコマ割りや大ゴマが多いのでさらっと読めました。Web での掲載を意識されてのことでしょうか

基本的に飾ることが嫌いというか、たとえば部屋に物があるのが嫌いで、とにかくなんでも捨ててしまうんです。すっきりしたものが好きで、コマ割りにもそういう面がよく出てるなと、自分でも思います

では、Web連載のためにこのコマ割りを考えたわけではない?

もともとは四角い枠の中に収めたいという気持ちがとても強く、それでもいくつかのコマでは枠からはみ出して描きました。ただ個人的な好みとしては、複雑な形のコマは少し読みにくいと感じることがあったので、あまり描きたくないなと意識して

ほかにも、わずかな表情の変化で時間の経過を表している描写も印象に残っています

(編)その辺りの表現はすべて先生にお任せしていますが、とてもナチュラルにやってくださっています。ネームが出てきた段階で既にこういう感じなんですけれど、すごく特徴的だなと。基本webなので制限がないこともありますが、1ページにセリフやコマをもっと詰めたい作家さんも多い中で、とても大胆な使い方をされていると思います

映画のコマ割に近い印象も受けました。まるでカメラで撮っているかのような

一度、頭の中で映像化してから描いているせいかもしれません。人の流れなどを想像して、それを絵に当てはめるイメージで描いています。中には「こういうシチュエーションを描きたいから、話をこういう風に持っていく」という、本来の作り方とは逆のパターンもあります

『プロミス・シンデレラ』1巻より 『プロミス・シンデレラ』1巻より

モノローグより、キャラクターの表情と目線で語らせているシーンも

もともと、そういう表現が好きでした。それは『スラムダンク』最終巻の、セリフなしのシーンがすごく印象に残っています。そのシーンへの憧れがきっかけで、言葉よりも表情で語る表現が多くなったのかな

最後に、読者の方へメッセージをお願いします!

いつも応援ありがとうございます。こうしてマンガを描き続けることができるのは、たくさんの方々が本を読んでくださっているおかげです。最後まで全力で心を込めて物語を作っていきたいと思いますので、お付き合いいただけると嬉しいです。これからも『プロミス・シンデレラ』をよろしくお願いいたします

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