『やわらかロック』や『陽の当たらない小出くん』で知られる石川ローズが送り出す新作は、まさかのタイムスリップ+異文化交流コメディ!
現代のミニマリスト・山上(やまがみ)。彼はなぜか飛ばされてしまった奈良時代で、下級役人・小野老(おののおゆ)と知り合う。老は後に「万葉集」に収録された和歌「あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり」の作者として名をのこすが、それはさておき山上を迎え入れ、話は合わずも息の合った共同生活を始める。
二人のやり取りに吹き出しながら知る奈良と歴史、そして官位の読み方にも詳しくなれる話題作、ここに登場!
取材・文/田中香織(2018/5/21公開)
初マンガはペンギンが主人公
最初に読まれたマンガは、どの作品だったのでしょうか
『クレヨンしんちゃん』です。多分アニメから入ったと思います。その後ほかの臼井先生の漫画を読んだら、意外とエロくてショックを受けた経験があります
アニメから入られて、同じ著者のほかの作品まで読まれるとは!なかなかディープな入り方ですね。マンガを描き始めたのは何歳くらいのころからでしたか?
小学校高学年の頃ですね。ペンギンを主人公にした漫画ばかり描いてました。長崎にペンギン水族館があるからだと思いますが、理由はわかりません。謎の刷り込みが働いたのかもしれません
長崎、すてき!そんな水族館があるんですね。ちなみにペンギンが主人公のマンガは、どんなジャンルだったのでしょう。まだお手元にお持ちですか?
4コマ形式で、ラストはなにかと「ドッペン」とひっくり返るペンギン日常漫画です。手元には残ってないのですが、いつか趣味でひっそり描きたいですね
絵の描き方の勉強はどのようになさってましたか?
大学で美術史を専攻してたんですが、描き方の勉強はさっぱりでした。今年に入ってからはパルミーの人体デッサン講座です!
有料のオンライン講座ですよね……?!なにかきっかけがおありで
いろんな絵……活き活きとした楽しげな絵を描くにも基礎のデッサンって必要だなと思い、はじめは通いのデッサン講座みたいなのないかなと探しました。ただやはり家に引きこもってる期間が長いので外に通う勇気がなく、通信で始められるパルミーを見つけました
デビューと新作誕生までの道のり
初めての投稿はどんな媒体に、いつ頃なさったのでしょう
初投稿は大学3年生の時に「別冊マーガレット」にしました。最後名前がズラっと書いてあるやつのAクラスでした
少女マンガ雑誌ですか!これまで描かれてきた場所が青年誌のイメージだったので、驚きました。では初連載の『やわらかロック』について、掲載が決まるまでのお話を伺わせてください
『やわらかロック』の連載前の話……。「週刊スピリッツ」の努力賞のような、もう一歩で賞みたいなものをいただいた後の初めて編集さんと顔合わせの時に、何かネームを持っていかなければと思い、ショートのバンド漫画を4本くらい作って行きました。そしたらちょうど、やわらかスピリッツというwebマンガ誌を立ち上げるという話を聞きまして、運よくそのままその作品で連載になりました
トントン拍子でのはじまりだったんですね!連載時のご苦労など、印象に残ったことはありましたか?
今は結構普通のことですけど、毎週投票数とコメント欄が可視化されるシステムってなかなか心折れるなと思いました。でも応援してくれる読者さんのおかげでモチベーションを保てる面もあるのでそれはありがたかったです。
『やわらかロック』以後、ずっとギャグマンガを描かれてらっしゃいますが、ジャンルとしてお好きなのでしょうか
ギャグマンガを描きたいのではなくて、シリアスなものが全てボツになってるだけなんですよ(泣)
なんと……!編集さんから、その辺りになにかアドバイスなどを受けたりされたことは
石川さんはギャグの人だから、と決めつけられてる感じです(笑)
そんなやり取りも活かされた(!?)最新作の『あをによし、それもよし』、1巻に寄せた先生のコメントには「編集さんから『貧窮問答歌をかいてください』というお話をいただいた」とありました。その依頼から、実際に作中の「ミニマリスト」「タイムスリップ」「奈良時代」といったキーワードへ結びついていった経緯をお聞かせください
はじめ山上憶良が現代にタイムスリップってアイデアがあったのですが、う〜〜ん〜〜〜〜それはなあ〜〜〜〜〜〜なんか描きづらいなあ〜と、何も浮かばなかったので、何も出なかったので、何もないので、何もひとつもなかった……ん、何もない……?これだ!って感じです。……ふざけているようですが、マインドマップを作って真面目に考えました!
「あをによし、それもよし」1巻より
マインドマップ!漫画家さんからそのお言葉をうかがうのは、なんだか斬新です(笑) 以前の作品でも作られたことが?
そうですね。書き出して整理することはよくします
過去の作品である『やわらかロック』のギャグの畳みかけ方と『陽の当たらない小出くん』の会話劇がさらに進化したように感じられる『あをによし、それもよし』ですが、新旧の作品でなにか違いを意識されましたか?
ギャグからの逃亡を図りました。……が、失敗しました
(笑)「逃亡を図った」部分の名残はありますか?
背景の描き込みはその表れです。背景だけでもストーリ漫画っぽくしようと。ストーリー漫画家になりたい!
ちなみに、どういった点を特に意図して描き込まれましたか?
真面目な話をしますと、奈良時代へ没入できるようにと意識して線を増やしています。それで私が感じた奈良の空気、奈良の良さを読者さんにも感じてもらえたら嬉しいなと
奈良と歴史を知るために
資料として奈良時代に関するものを多く買われたと書かれていましたが、どうやって資料を探したり、購入されたりしたのでしょう
はじめは、高校の教科書とか、日本史便覧から勉強をし始めました。でも奈良時代だけを勉強してもわからないので、飛鳥時代くらいから「スタディサプリ」で勉強しました
「スタディサプリ」?!またしても斬新なキーアイテム!
日本だけ知っても良くないと思い、「スタディサプリ」で世界史の授業を聞きました。……なんてことをしているうちに資料の探し方の勘がなんとなくわかったようなです
Twitterで触れてらっしゃった『奈良旅手帖』についても聞かせてください。通販が主の書籍ですが、本との出会いはどちらで
奈良の風景本や旅本を集めているうちに、ネットで奈良旅手帖の紹介ページにたどり着き、奈良愛が伝わる作りで「これは欲しい」と思い買いました。
おススメポイントなどもお聞かせください!
『奈良旅手帖』は、とにかくこれ一冊で奈良が全部入ってるから凄いなあと思います。これを片手に奈良旅行はめちゃくちゃ便利でした。私のオススメは1月と10月の鹿のシルエットです!
「あをによし、それもよし」1巻より
連載を始められる前から、奈良時代や歴史、和歌などがお好きだったのでしょうか
歴史は好きでしたが、小アジア、今のトルコあたりの歴史です。アケメネス朝ペルシャくらいからオスマン帝国初期くらいまでがめちゃくちゃ好きで
むしろ、世界史がお好きだったんですね
奈良時代って昔過ぎてあまり資料も残ってないからアレですけど、日本史史上一番国際的な時代だったと思うんです。平城京にペルシャ人いたし。文化的にも平安に入っちゃうと違うけど、天平文化ってすごくオリエンタルだし大好きです
奈良には何度ほど足を運ばれたのでしょう。印象的なことはありましたか?
2度行って思ったのですが、レンタル自転車を借りて(必須)、平城宮跡を乗り回すのが最高です!あと平城宮に点在しているボランティアのおじいさんの優しさが異常
「あをによし、それもよし」1巻より
おじいさん、気になりますね。お会いしてみたいです(笑)
はい、ぜひ行ってみてください!
老がかわいくて仕方ない!
「あをによし」や「あしひきの」「あかねさす」、掛詞や食べ物、道具など、その回ごとにメインとなるキーワードや物事が出てきます。このあたりの発想はどこから、もしくは掲載する順番など、普段から言葉や対象のストックをお持ちなのでしょうか
ストックをいくら貯めても、毎回枯渇するくらいネーム直しとボツが多くて……。ネタや言葉のストックはやめてしまいました
個人的には「Qi」についての話がツボでした!
Qi=氣の話は、最近肩こりが酷くて鍼灸治療をしていたのです。なんか気功とか太極拳とか東洋医学的なマインドになっていました
連載が進むにつれ楽しくなってきたこと、もしくはご苦労された点などありましたら
老がかわいくて仕方ないです。早く「貧窮問答歌」に触れたいのですが、シリアスな描写になってしまうのでカットされます。これまで多分3回くらい。もうとにかくシリアスな描写が下手すぎて困ってます
「あをによし、それもよし」1巻より
最後に、読者の方へメッセージをお願いいたします!
「貧窮問答歌」の山上憶良と有名な「あをによし〜」の作者、小野老とシカのスガちゃんが奈良時代を満喫する万葉コメディです!!ぜひ読んでもらいたいです
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