シリーズ累計Twitter2億6000万PV突破!声のだせない少女と心が読める少女が織りなす、優しい世界の以心伝心コメディ―――!

失声症で声がだせない少女・真白が出会ったのは、ぶっきらぼうだけど心が読める女の子・心崎でした。
真白の嘘偽りない心の声をすくい取り、不器用な優しさで真白を助ける心崎。
2人が織りなすまっすぐで優しい世界は、やがて周囲の人たちを温かく変えていく。

本作の第2巻発売を記念し、矢村いち先生へ独占インタビュー!

取材/土橋加苗・日吉雄 文/土橋加苗(2020/11/6公開)


「漫画家」は絶対なると決めていました

漫画を描き始めたきっかけを教えて下さい。

結構単純な理由で、友達に連れていかれた原画展に行ったらプロの作家さんの原稿のクオリティが高すぎて、「自分も描きたいな」と思ったのが一番のきっかけです。

それは何の原画展だったんでしょうか?

ジャンプフェスタです…(笑)

一同 ああ~!(笑)

原画展に行ったのは何歳の時ですか?

中学二年生です。そのあたりから「漫画家になる!!」と言い始めました。

中学二年生で志して、本当に漫画家になったのはすごいですね…!

自分でも何があるか分かんないなって。小学生の時はそういう夢みたいな職業をバカにしてたんですよ。将来の夢も「田舎でゆっくり暮らす」でした。

悟りを開いていらっしゃる…!漫画を描き始めてから、周りの人には見せていましたか?

家族には、自分がいない間に勝手に読まれていました…すごく漫画を読む家庭だったので、「話の内容が酷すぎる」「コマ割りがダメだ」とかダメだしされていました。特に母親が昔持ち込みをしていたような人だったので。

では漫画家になったのはお母様の影響も?

いや、影響は受けてはないですけど、遺伝子ですかね。


とにかく早く漫画家になりたかった

描いた漫画は持ち込みなどされていましたか?

高校卒業後は専門学校の漫画学科に通って、その専門学校が1作描いたら数社に持ち込みに行け!という方針だったので、自分も行っていました。 先生に言われて行ったのはサンデー・マガジン・ジャンプが最初でした。専門学校一年生の時だったかな。 その専門学校の入試では面接があったんですが、その時校長先生に「うちの学校に入ったらあなたは何をしてくれますか?」と聞かれて「在学中にデビューします」って言いました。

かっこいい!!!

周りの人にはなんでそんなに生き急いでるの?って言われましたけどね…

家には何冊ぐらい漫画が?

入れ替わりが激しくて、古本屋で全巻買って読み終わったらすぐ売るのを繰り返していました。小学生の時、普通にリビングにバトルロワイヤルが全巻あったりしましたね。 全ジャンルの漫画がめっちゃある家でした。置いてある漫画はほぼ全部読みました。

一番好きな漫画は?

キャラだと『銀魂』。物語だと『スラムダンク』です!スラダンは完全版で全巻持っています!ザ・人気漫画が好きになるタイプでした。

『銀魂』と『スラムダンク』!『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』(以下『声カノ』)とはまた違ったジャンルの作品ですね…?

それは映画の影響が大きいですね。映画だとヒューマンドラマが好きなんです。「プラダを着た悪魔」や「最高の人生の見つけ方」とか。小学生の時から観てました。

小学生の時から!?

もちろん今観るのとではまた受け取り方は変わってますけどね!

TV、アニメはご覧になっていましたか?

よく観ていました!アニマックスも加入して観ていました。

英才教育ですね。『声カノ』の真白さんと心崎さんは高校生ですが、矢村先生の高校時代はどんな高校生でしたか?

こんなこと言っていいのか分からないけど、とにかく早く漫画家になりたいとずっと考えていました。あ、でも部活はバドミントン部に入っていましたよ!


『声カノ』は最初は単発のつもりでした

『声カノ』を描かれた経緯を教えて下さい。

あの時はTwitterに1週間に1本ペースで4pマンガを描いている時でした。「今週は何にしよう」って考えて、キャラ表が大量にある中で、心が読める少女と声がだせない少女が会ったら面白いかなあって描いたのがきっかけでした。続けるつもりはなくて単発のつもりだったんです。

編集担当(以下編)矢村先生は個人で楽しむものとしてTwitterをやられていたんですが、その当時編集部には別の企画を連載企画として出していたんです。でも編集長がTwitterで『声カノ』がバズっているのを見ていて、「こっちはどう?」となったんです。それで先生に「やってみませんか?」と聞いたら「やります」と言っていただき、今に至ります。

Twitterを始めたのも「お盆だと編集部お休みでやってないから退屈だな」って。(笑)知り合いがいないアカウントだったらクオリティも気にせず自由に描けるかなって始めたんです。

ではTwitterはある種「落書き帳」のような位置づけだったのでしょうか?

そうです!!でも思ったより公の場に公開されちゃって…いろんな方から反応をいただけて、最初の方は担当さんと「あれあれ?」と言っていましたね。

Twitter『声がだせない少女の話』より Twitter『声がだせない少女の話』より

Twitter版と連載版で、ご自身の中で何か描き分けはされていますか?

Twitterだとチャンピオンのように毎回購読している方が読むとは限らないじゃないですか。なので、ある程度初見さんにも分かるように設定を散りばめるのは意識しています。毎回考えるのは初見さんにも分かるように、シンプルかつ面白く、詰め込み過ぎない。

連載が始まって一番大きく変わったことは何でしょうか?

正直あまり何も変わっていないです。今まで通りの量を描いてます。

えっ、それでは元からすごい量を描かれていたのですね!

連載前は1週間に1本新作のネームを描いてました。

ええっ…!?

(編)打ち合わせで「次こういう話にしましょう」と言ったら、1週間に1本必ず新しいネームが上がってきていました。それも何十ページもの…。それが破られたことは一回もないですね。本当にすごいと思います。

それだけアイデアが出るのも素晴らしいですね。キャラクターも毎回一新していたんでしょうか?

はい。

もちろん努力もされていらっしゃると思いますが、才能…!

思ったことをすべてノートに書き出すってことをやってます。そうするとどうでもいいことが結構アイデアだったりするんです。全部書き出すと結局新しいことを考えるので。『声カノ』のエピソードもこのノートから生まれています。

この長めのタイトルの由来は?

タイトル案は色々出したんですが、全部すごかったので最終的にこれになりました…

それはボツ方向にすごかったんでしょうか…?

はい…

(編)(笑)元々Twitterに上げていたのがこのタイトルだったので、長いけど、これで世に出ているのであればこれで行きましょう!と。

タイトルの長さのせいで宣伝ツイートが文字制限にひっかかることも多々ありますけどね。ハッシュタグも鍵カッコが使えないので、たまに純粋にタイトルを入れてくださった書店さんのハッシュタグが途中で切れちゃったりして…申し訳ない…。あとはタイトルだと認識してもらえないこともあります。友達が母親に本の購入を頼んだらしくて 『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』というタイトルを教えたら、「いや、だからタイトルを教えてよ」って…。あらすじだと思われちゃいました。

Twitterのリプライは全部読んでいるとお伺いしましたが…

はい、全部読んでますよ!

一番嬉しかった読者さんの声は?

いただく声はどれも嬉しいですから…う~ん、たまにとても長文で感想を送っていただくこともあって、「Twitterでチラッと巡り合った作品に対してここまで感想を抱いていただけるんだな」ととても嬉しいです。 あとは失声症の方からリプライやDMをいただくこともあります。最初は「反感を持たれてしまうのでは」という不安もあったのですが、「世の中に知らせてくれてありがとうございます」「自分が困った時に心崎みたいな人がいればよかったなと思います」というコメントも来て、ありがたいなと思います。

この作品は失声症と失語症の違いを知るきっかけにもなりました。

確かに病名だけだと同じように見えますよね。


すべてのエピソードを平等に好きです

『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』より 心崎&真白 『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』より 心崎&真白

真白さんと心崎さんにモデルはいるんでしょうか?

いないです。現実の人物をモデルにすることはめったにないですね。

単行本1巻のキャラ表で、心崎さんの「嫌いなもの」が妙に具体的だったのでモデルがいらっしゃるのかと(笑)

あ、それは単に自分がめざしが嫌いだからです!(笑)

そうなのですね!では心崎さんはちょっと矢村先生に近いのでしょうか?

いや…自分から見て自分のことは一番よく分からないので。どうでしょう…作る時は自分の一部分を巨大化して描く、というのは一般的に言われていますよね。結局自分にない一面はほとんど描けないです。

この作品はセリフもとても印象的です。セリフで気を付けているところはありますか?

そうですね、皆さんこの漫画を読んで一発目に思ったのが“キャラの関係性”だったと思うんですけど、自分としては“心の面”の方を毎回メインに描くことを意識しています。

『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』1巻第8話より 『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』1巻第8話より

お気に入りのエピソードはありますか?

…………うーん……(担当さんに向かって)昔話したじゃないですか、「どんなネームでも自分の中ではすべて同じ」って。

(編)仰っていましたね。

描いているときはそれに向かって描くけど、終わったら終わった作品として考えるから…すべてのエピソードを平等に好きです。

確かに“平等の愛”というか、差別をしないという概念みたいなものはまさにこの作品の中に入っていますね。


真白の過去を描かないと着地点につかない

真白さんの過去を描く予定はありますか?

あります。結局この作品って、真白の過去を描かないと着地点につかないかなって思っているのもありますし。描かないで終わることはないです。

そのエピソードは先生の頭の中にはもうあるのでしょうか…?

ご想像にお任せします!(笑)

担当さんとは日頃どんなやりとりを??

毎回サブタイトルで笑われています。。。昔からタイトルセンスが無くて…昔出した読み切りのタイトルがすごくツボだったらしくて、それ以降『声カノ』のサブタイトルでも面白いのが出ないかいつも狙われてるんです!!!

(編)いやいや!弁明させて下さい!いただいた原稿・ネームに対して感想や提案をお伝えするのがいつもの打ち合わせなんですけれども、次の話(まだ原稿になっていないもの)に対して「自分はこう思いましたがどうでしょう?」と聞くと、「じゃあ来週待っててください」と矢村さんが言うんです。返答はその場ではなくて、翌週形になって提出される。そしてその提出されたものの方が絶対面白くなっているんです。矢村さんも「自分もこうなるとは思ってなかったんですが、キャラが暴走しちゃって」と。その中で、サブタイトルが毎回ささやかな楽しみにはなっています。よく素っ頓狂なサブタイトルが来るので(笑)

サブタイトル気になります…!(笑)週刊連載のプレッシャーはあったりするんでしょうか?

ないです。自分はネームから下書きから原稿提出まですべてiPadでやっているんですが、友達とSkypeしながらとか、好きな動画見ながらやっているから「仕事」と捉えてメンタルに来ることはないですね。

(編)打ち合わせの時とか、待ち合わせをすると駅とかで普通にカラー原稿とか描いてますからね! 見る人が見たら普通に分かっちゃうよ!って言ってるんですけど…。本当に集中力がすごいんです。

それは昔から友達が許容してくれたおかげです。遊園地に行って、待ち時間でプロットを書いていても許してくれるし…(笑)よくずっと縁が切れないなって。ありがたいなと思います。

真白さんと心崎さん、どっちが描くの楽しいですか?

どっちだろう…!描くのは同じくらい楽しいです!あ、でも雑真白が一番好きです!でも言動的に描きやすいのは心崎の方かも。

『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』1巻第3話より雑真白 『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』1巻第3話より雑真白

(編)確かに心崎と似てるところはあるかもしれない…打ち合わせをしている時に、よくお友達の話をされるんですよ。 話を聞いていると、やはり友達想いでとても友達を大切にされているのが伝わってくるので、真白・心崎の二人に共通している根っこの部分は持ってらっしゃる人だなとすごく感じます。

心崎さんの「心の声が聞こえる」というのは超能力的な設定なんでしょうか。

そうです、元々この能力を持っていたという設定です。読者の方で「声が音声として聞こえているとするなら、心崎だけ真白の声が聞こえているのはどういうこと?」って気にかかる方は結構いらっしゃるみたいです。

『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』1巻第6話より 『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』1巻第6話より

声が浮かんでくるイメージなんでしょうか?

自分のイメージでは、海外ドラマの「HEROS」のようにダイレクトに真白の声で聞こえているというイメージです。


結局“普通の人”なんていないんじゃないかな?

キャラクターは今後も増えていきますか?

増やしていこうかな、とは思っています。

すごく勝手な想像なのですが、普通の子は出てこないんじゃないかな?と思っています。

あはは(笑)中村さんも最初はすごく普通の子のつもりで描いたんですけど、 結局“普通の人”っていないんじゃないかな?って。掘り下げていくと全員特徴があって、性格があって、みたいな。ザ・普通の人って何なんだろうって逆に思ってきますよね。

『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』中村さん初登場 『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』中村さん初登場

確かに…。でも、それだけ先生が人を見ていらっしゃるんですね。キャラが出てくると、どんどん進化していく感じですね。

そうですね。多分単発の時点では真白もこんな子じゃなかったと思いますし。絶対今のこんなマヌケ部分は少ないです。

あのマヌケ部分に癒されます!あれも、おそらく心崎さんに会ったからなんだろうなと読者として思います。ずっと暗い中にいたけど、心崎さんに会ってからああいう部分が出てきたんだろうなって。それを見てこちらも安心するんですよね。

読者の方にもよくそう言っていただけます!作者としてはそこまで考えてくださるのはありがたいですよね。

そういう想像をしたくなる作品です!習志野さんを登場させるときは、どういう位置づけで出そうと思っていらっしゃったのでしょうか?

習志野さんも「ずっと出そう」と思って描いたわけではなく、初めは真白とコンビニ店員さんの話を考えようと思っていたんです。どんなエピソードがあるかな?って考えたらああなっていって。その後に習志野さんがしゃしゃり出てきた感じです(笑)思ったよりグイグイと…

コンビニ店員さんなのに結構出没していますよね!

2巻ではさらにもっと出没しています!読者の方から「こいつ大学に友だちいるの?」という声もちらほらいただいています…


2巻では二人の関係性に変化が?

11/6に2巻が発売ですね!どういう本になっていますか?

メインは夏休みの話です。心崎と真白の二人プラス、中村さんと習志野さんの話で、和気あいあいとした感じもありつつ、真白と心崎の関係性のちょっとした変化をメインで描いています。 ただ、夏休みで関係性の変化があるので、2巻発売までTwitterの方をどうしようかなって…。

Twitter版も担当さんとやり取りして決めていらっしゃるのですか?

(編)いえ、まったくしていないです。完全に一読者として「おお上がってる~!」って楽しんでます。

Twitter版は完璧に勝手にやらせてもらってます。

(編)今は完全に連載版とTwitter版は別物として切り離していて、Twitterの方が良いエピソードでも週チャンの方に出しましょうよという話はしなくなりましたね。

なので2巻はTwitter版と被っている話はないです。

(編)Twitter版もかなり反響をいただいているので、何かできないか…というのは考えています。

『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』第1巻おまけ③より 『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』第1巻おまけ③より

最後に読者の方々にメッセージをお願いします

本当に、思った以上の人に読んでもらえていて、新人の作品だと最近のご時世ほぼ目に留まらず話題にならず消えていくことなんて多々ある中、目に留まっていただけるだけでありがたいことだな、って思っています。自分の身みたいに応援してくださる人もいたり、「初めから見ていた物語が成長していくようでうれしいです」って言っていただくファンの方もいて。頑張っていきたいなと思いますので、これからも『声カノ』を応援してくれると嬉しいです!

『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』 『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』